祝祭
2005-12-31


年末年始の非日常性は、自分一人が特別なのではなく、自分以外の人々もみんな何となく特別な装いだったり表情だったりすることからきます。
もっとも、年末年始であろうと鉄道は運行しますし、コンビニは営業してますし、スーパーだって営業していたりして、最近は「特別じゃない年末年始」を過ごしている人も多くなってきた訳ですが、そんな人でもやっぱり、どこか普段と違った顔をしているように、見えてきます。
誕生日のような、世界はいつもと同じ顔だけど、自分一人が特別な雰囲気をまとっているという祝祭は楽しいものです。でも、世界全部が非日常的な雰囲気になるという祝祭は、自分はいつもと同じつもりでも、何か見えない力で背中を押されてあれよあれよと非日常へ押し出されるような、強いエネルギーがあります。自分一人で祝祭の雰囲気を形作らなくても何とかなるという点では、結構ラクな祝祭です。
逆に言えば、そういう時に、色々な理由で祝祭に乗る訳にはいかない人々にとっては、辛い時間でもあるのでしょうけど。

年末にぴったりなのが、早川文庫で出ている「一角獣をさがせ!」という物語。ファンタジーとハードボイルドのエッセンスがぎゅっと凝縮されて作られた、上等なカクテルのようなきれのいい香りのお話です。
これを読みながら年越しの瞬間を味わう……という年末年始をいつか過ごしてみたいのですが、私は年末年始は家族と過ごすことにしていて、おせちを作ったり掃除をしたり挨拶回りに行ったりおしゃべりしたり、楽しくて忙しいイベントにスケジュールは埋めつくされていて、静かに読書、なんてどころではありません。
今の私は、誰かと年が変わる瞬間を過ごせる、とても幸福な人間です。でもあと何十年か運良く生きていくうちにもしかしたら、ひとりで、たったひとりで、年が変わるのを見届けなくてはならない日が来るかも知れません。
だから「一角獣をさがせ!」と読みながら年末年始を過ごすという光景は、その時までとっておくつもりです。でも我慢できなくて、今年のお正月に読んでしまうかも知れませんけどね。

とりあえず、色々とありましたが、今年も暮れていくようです。
これを読む全ての人に、そしてこれを読まない全ての人に、幸せが月の光のように、降り注ぎますよう。

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